スキーの話し(結婚式でのスピーチ)

 花嫁さんが学生時代スキー部に籍を置きスキーを楽しまれたとの事ですが、他のスポーツもやられそうながっちりとした体格の活発そうなお嬢さんである。それにひきかえ花婿さんはスポーツとは縁遠そうで、子供の頃はテレビゲームに励んだのではないかと思われる、現代の若者と言った感がある。(夫婦とはそんなものかも知れない)

 スキー部の部長として世話をしてくださったと言う大学教授が招かれスピーチをしてくださった、スキーでの足の使い方重要だと。平たんな地面を滑る時は、両足に平均的に体重を乗せるが、一たび急斜面とか難しい局面になると片足にしか体重をかけられない、と言うのです。そしてもう一つの足は邪魔をしないようにするだけだと。

 この邪魔をしないという行為がはなはだ難しいと言うのである。私は雪国(山形)育ちである、とは言っても11才の時に東京に出てきてしまい、最後にスキーをしたのは14才の時のように思う。でも、このスキーの足の使い方に感動して聞き入ったのです、これから荒波に漕ぎ出すであろう結婚の門出には的確な話だと。

 日常生活においても順風満帆の時は、二人の共通する時間を設ける事は多く、同等に分担をしながら楽しんで時間を過ごせる事が多いにちがいありません。ところが一たび苦境に入れば手助けなどは到底望み様が無く、おろおろするか少なくとも邪魔に成らない様にするのに精一杯と言う状態になるものです。

 男にとってその最も良い例は、妻の出産という事になるでしょう。考えてみれば「子作り」ほど不思議なものは無いと思います。男はその最初にほんの一瞬だけかかわる訳ですが、よし「子供を作るぞ」と言って励む男はどれだけいるでしょう、その大半は「えっ、出来たの?」では無いかと思うのです。私などはその代表のような者でしょう。

 子供は二人ですが、最初は結婚して直ぐで、私に余裕など無く無我夢中の状態でした。二人目は最初の開業(歯科医院)の時で、仕事に必死の時であり、これから妻の手助けを得られないという事と、経済的負担の事の方が頭をよぎった事を憶えています。そのぐらい追い詰められていた時でした。まさに「えっ、出来たの」の世界です。

 その上、出産ともなれば女性の一人舞台です。特に我々の時代には立ち会うなどという習慣もまだ無く、分娩室のドアの外でうろうろするのが落ちでした。まあ邪魔に成らない様にしながらも、心の感動だけは多少妻と共に味わいたいと思った様です。それも一人目だけで二番目の時は診療中でした、日常のお金に最も追い詰められている時だったのです。

 男にとって最も辛い言葉は「仕事と私とどっちが大切なの?」でしょう。結婚する前であったら、さっさと別れるでしょうが、その頃は互いに良い格好し、男も仕事の上で多少の犠牲をしても時間を作るものです。ですが日常と成るとそうはいきません、特に仕事に追われ追い詰められた時にこそ言われるのです。「せめて邪魔しなでよ」となる訳です。

 片足にだけ体重がかかる、そしてその重心の移動が重要なのだ、と。その時その時の荒波に向かいながら、協力すると言う事の第一歩は「相手の邪魔に成らない事」とは、人生の先輩として素晴らしいスピーチであったと感動した次第です。    15611


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